マニラの真夜中のことがふと蘇る。マニラの中心にある「アリストクラット」というレストランは、マニラの大通りに面して24時間営業している老舗だ。創業1930年、もうすぐ創業100年となる。
アリストクラットでは、チキンとライスというフィリピンの伝統的な料理が提供される。炭火で焼かれたチキンの香ばしさとライスの組み合わせは、シンプルでありながらも、深夜の空腹を満たすにはこれ以上ないほど完璧なメニューだった。
店内は天井が高く、周辺にはヤシの木が並び、まるでリゾートにあるレストランのような雰囲気が漂っている。家族連れが多く、その家族の人数には驚かされる。5人、10人、時には20人を超える大家族がテーブルを囲み、全員がチキンとライスを食べた後、超特大のデザートを頼んでいる。暑いところに来ると、甘いものが欲しくなるのは私も同じだった。
マニラに到着する時間が遅くなればなるほど、深夜に美味しいものを食べるのは難しくなる。しかし、24時間営業のアリストクラッドはそんな中でも間違いのない選択肢だ。私もフィリピンのお客さんが食べているものと同じチキンとライスのメニューを注文するが、そのライスが深夜に不思議と進むのは、炭火の香りがチキンに染み込み、ジューシーだからだろう。食事はあっという間に終わり、気づけば皿が空になっている。とにかくマニラでは美味しいで有名なお店なのだ。
日付が変わる頃、遅い夕食を終え店を出ると、4〜5歳くらいの男の子が近づいてきた。「ハイ」と差し出されたのは一本のバラだった。こんな夜中に、子供がバラを売っている。今日は土曜でも日曜でもない。
ただ、私は彼に興味を持ち、少し話を聞くことにした。「お母さんはどこにいるの?」と聞くと、男の子は「あっちの方で寝てる」と指をさした。夜中に子供を働かせている親のことを考え、言葉を失ったが、これがマニラの現実なのだと感じた。
その後、少し手が空いたアリストクラットの店員が玄関に出てきて、なぜか私と少年、そして店員の3人で腰を下ろすことになった。今思い返すと、なんとも奇妙な光景だ。店員は少年と軽く言葉を交わし、まるで遊び相手のように楽しげだった。
私は「いつもここでバラを売ってるの?ちゃんと寝いとダメだよ」と声をかけた記憶がある。平成の終わりに、こんな光景を目にするとは思ってもみなかった。2019年のことである。
世界中で、バラを売る人々をよく目にする。ローマでも、バラを一本だけ手にして売っている大人たちを見かけるが、この「マニラのバラ」の光景にすべてが重なって見えるのだ。日付が変わる夜中のマニラに3人。なぜか一緒に腰を下ろし、夜の静けさの中で交わしたあの不思議な会話の記憶が、今も鮮明に浮かんでくる。
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Go, Discoverを運営している小西裕太です。記事や写真などすべては私が書いて撮影したものです。私は金沢市を拠点にWeb制作などの仕事をしていますが、旅が大好きで、これまでにアジアやヨーロッパを中心に20数カ国を旅してきました。まだ訪れた国は決して多くはありませんが、その中で経験したことはどれも心に残るものばかりです。思わず笑ってしまうような出来事や、心が温かくなる瞬間。旅を通して感じたものを、いつか誰かと分かち合いたいとずっと思っていました。もしこのサイトを通じて、「旅に出てみたいな」と思ってくれる人が一人でも増えたら、それ以上に嬉しいことはありません。