Café del Marという名前を聞いたことがあるだろうか。スペインのイビザ島にある有名なカフェ・バーであり、同時にその名を冠した音楽アルバムシリーズとしても知られている。このアルバムは「チルアウト」という音楽ジャンルを確立し、世界中の音楽ファンに愛されている。私自身、このCafé del Marの音楽に出会ったのは2000年初頭のことで、それ以来ずっとCafé del Marを愛してやまない存在となった。
Café del Marとの最初の出会いは、当時流行していたMP3形式の音楽ファイルだった。インターネットがようやく普及し始めた時期で、まだ法整備が整っていなかったため、多くの音楽ファイルが自由にダウンロードできる環境だった。その時、偶然手に入れた曲がAlex Neriの「Asia」という一曲で、それがCafé del Marとの運命的な出会いとなった。
その後、Café del Marのアルバムを次々と集め、気づけば20年以上もその音楽とともに過ごしていた。この出会いが自分にとってどれほど大きな影響を与えたかは、当時は知る由もなかったが、今ではCafé del Marが私の音楽的な感性やライフスタイルに欠かせない存在となっている。
Café del Marがあるのは、スペインのイビザ島だ。この島は、バレアレス諸島の一部であり、バレンシア海に浮かぶリゾート地としても有名だ。イビザは特に「パリピの島」(語弊があります)として知られ、クラブやパーティーが盛んな場所として世界中の若者たちに愛されている。しかし、イビザにはそれだけではなく、豊かな自然や歴史もあり、音楽や文化の発信地としての一面も持っている。
Café del Marがオープンしたのは1980年のこと。イビザ島のサン・アントニオ・バドルにある海沿いのロケーションで、その名の通り「海のカフェ」としてスタートした。しかし、Café del Marの真の魅力は、夕日をテーマにした独自の雰囲気にある。ここでは、毎日美しい夕日が沈む時間に合わせてチルアウトミュージックが流れ、訪れる人々はその音楽とともにゆったりとした時間を過ごすことができる。
Café del Marを語る上で欠かせないのが、その音楽だ。Café del Marが世界的に有名になったのは、伝説的なDJホセ・パディヤが手がけたコンピレーションアルバム「Café del Mar」のおかげだ。ホセ・パディヤは1975年にイビザに移住し、1991年からCafé del MarのDJとして活動を開始。1994年にはアルバムシリーズ第1弾がリリースされ、これが「チルアウト」という音楽ジャンルを世界に広めるきっかけとなった。
ホセが手がけたCafé del Marのアルバムは第1弾から第6弾まであり、特に初期の作品はCafé del Marの音楽的な基礎を築いたものとして高く評価されている。残念ながら、彼が手がけたアルバムの多くは現在ではSpotifyなどのストリーミングサービスではすべて再生できないが、一部のベストトラックは「Café del Mar Essentials」などで聴くことができる。
Café del Marの音楽は、夕日をより美しく感じさせるために選曲されており、そのリラックスした雰囲気が多くの人々を引きつけている。音楽を聴きながら、目の前に広がる海と沈みゆく太陽を眺めるという体験は、まさにCafé del Marならではの贅沢なひとときだ。
Café del Marを実際に訪れたいと思い、ついに私はイビザ島へ向かうことを決意した。日本からイビザへの旅は、地理的にも時間的にも決して簡単なものではない。まずヨーロッパまでの長時間フライトがあり、そこからさらにイビザへの移動が必要だ。幸い、イビザには空港があり、バルセロナやパリなどからの直行便も出ているが、私が訪れたのは6月の繁忙期であったため、飛行機のチケットは非常に高価だった。そのため、私はバルセロナからフェリーでイビザに渡ることにした。
バルセロナからイビザまでは、約8時間のフェリーの旅だ。フェリーは快適で、船内には食事やドリンクが充実しており、景色を楽しみながらゆったりとした時間を過ごすことができた。長い船旅の末、ようやくイビザ島に到着した時には、朝焼けが美しく、Café del Marが待つこの島に到着したという実感が湧いてきた。
イビザ島に到着した後、目的地であるサン・アントニオ・アバドへ向かった。Café del Marはこのエリアに位置しており、バスやタクシーを利用して移動することができる。サン・アントニオ・アバドは、クラブやバーが立ち並ぶエリアで、昼夜を問わず多くの観光客で賑わっている。私はこのエリアを歩きながら、白い壁に囲まれた建物や路地裏を進み、ついにCafé del Marへとたどり着いた。
Café del Marの入口にあるマーブル模様の看板は、アルバムのジャケットでもお馴染みのデザインで、ファンにとっては感動的な瞬間だ。このカフェにはお土産ショップも併設されており、TシャツやCD、キーホルダーなどが販売されている。特にファンにはたまらないアイテムが揃っており、訪れるだけで胸が高鳴る場所だ。
Café del Marの営業時間は夕方から深夜までで、夕日が沈む時間帯に合わせて営業が始まる。このバーの最大の魅力は、何といっても美しい夕日だ。夕日が沈むとき、多くの人々がその美しさに拍手を送る光景は、イビザならではのものだろう。日本では夕日に拍手を送る文化はないが、イビザでは自然の美しさを讃えるためにこのような風習が根付いている。
Café del Marのテラス席から眺める夕日は、まさに絶景だ。空がオレンジ色に染まり、太陽がゆっくりと地平線に沈んでいく様子は、言葉にできないほど美しい。この瞬間を楽しむために、Café del Marを訪れる価値があると私は感じた。
Café del Marは基本的に予約が必要で、特に夕日を眺めながらゆったりと過ごすテラス席は人気が高い。予約は公式サイトからオンラインで行うことができ、席の場所や料金によって選べるプランが異なる。最も海に近い「Seafront terrace in first row」は70ユーロからで、最低利用料金が設定されているため、食事やドリンクでこの金額を超えることを見込んでおくと良い。
メニューも充実しており、シグネイチャーカクテルやスペイン料理を楽しむことができる。価格はやや高めだが、Café del Marという特別な場所での体験を考えると、十分にその価値がある。
Café del Marは、音楽と夕日、そして特別な雰囲気が融合した場所であり、私にとって長年の夢だったこの場所を訪れることができたのは、人生の大きな出来事の一つだと感じている。チルアウトミュージックが生まれたこの場所で、実際に音楽を聴きながら夕日を眺める体験は、私の想像を超える素晴らしさだった。
イビザ島やCafé del Marの魅力は、単なるリゾート地や音楽の聖地というだけでなく、その場にいるだけで心が癒される特別な力がある。これからもCafé del Marの音楽を聴きながら、いつかまたこの場所を訪れる日を夢見ている。Café del Marに出会ってから20年以上が経ったが、これからも私の人生の一部として、ずっと寄り添ってくれる存在であり続けるだろう。
書いている人について
Go, Discoverを運営している小西裕太です。記事や写真などすべては私が書いて撮影したものです。私は金沢市を拠点にWeb制作などの仕事をしていますが、旅が大好きで、これまでにアジアやヨーロッパを中心に20数カ国を旅してきました。まだ訪れた国は決して多くはありませんが、その中で経験したことはどれも心に残るものばかりです。思わず笑ってしまうような出来事や、心が温かくなる瞬間。旅を通して感じたものを、いつか誰かと分かち合いたいとずっと思っていました。もしこのサイトを通じて、「旅に出てみたいな」と思ってくれる人が一人でも増えたら、それ以上に嬉しいことはありません。