セブのビニール袋

セブと聞いて、どんな光景を思い浮かべるだろうか。青い海、白い砂浜、そして南国リゾートの風景。あるいは英語留学の地として名を聞いたことがあるかもしれない。だが、その地がフィリピンに属する島だと気づかない人も多いだろう。

セブはリゾート地として栄えているだけでなく、英語とタガログ語が公用語として話され、観光客が安価に英語を学べる場所でもある。物価が安いという点も、多くの人をこの地へ引き寄せる理由の一つだ。インドネシアのバリ同様、リゾート地はしばしばローカルの生活と切り離され、観光客のために開発された「異空間」と化している。セブも例外ではなく、リゾートの華やかな顔の裏には、昔ながらのフィリピンの風景が静かに息づいている。

私が魅了されるのは、そんなローカルの風景だ。そこには人々の生活の息遣いがあり、彼らの食文化や日常が垣間見える。だから、リゾート地の「美しい場所」だけを好む人々とは話が合わない。もちろん、その地にしかない自然の美しさは別だが、リゾートという名の「人工の美しさ」は、どこへ行っても同じように感じられる。世界中どこに行っても、結局はマクドナルドで毎日食事をしているようなものだ。それでも、現地の特別なメニューがマクドナルドに並ぶことがある点だけが救いかもしれない。

セブの中でもリゾートが集まるラプラプ島、正式にはマクタン島と呼ばれるこの地は、セブの玄関口である空港も擁している。名前もなんだかラブリーで、リゾートのイメージにぴったりだ。セブ島とラプラプ島は二つの橋で結ばれている。距離は数百メートルほどだろうか。しかし、朝夕の通勤ラッシュともなると、この橋は車で埋め尽くされ、渋滞でまったく進まなくなる。橋の上を歩いたほうが早いとさえ思うほどの混雑だ。リゾートと現実を結ぶ道路と呼ぶべきだろう。

さて、セブのローカルな魅力を象徴する場所の一つが「カーボンマーケット」だ。1909年に開設され、今や100年以上の歴史を誇るこのマーケットは、かつて石炭(カーボン)を扱っていたことからその名がつけられた。東南アジアの典型的なマーケットの姿が広がり、生鮮野菜、魚、鳥、調味料など、ありとあらゆる商品が並んでいる。中には「闘鶏」に使われる鳥まで売られている。マーケットの裏手に回ると、人々の生活が垣間見える。洗濯物が風に揺れ、子どもたちは路地で遊び、大人たちは賭け事に興じている。学校には行かないのだろうか? そんなことをふと思ってしまうが、それもまたアジアの光景だ。

このように書くと、汚く感じる方もいるかもしれない。しかし、私がフィリピン、いや世界で最も美しい子どもの笑顔を見たのは、このカーボンマーケットだったと言っても過言ではない。

露天と住居が一体となったこの場所で、子どもたちはビニール袋一枚で延々と遊んでいた。ビニールの中に潜り込み、顔を出しては追いかけっこを続ける。その単純な遊びを、どれだけの時間続けていただろうか。そんな彼らに引っ張られ、写真を撮ってくれとせがまれた。その瞬間を捉えた写真は、今でも私の旅を思い出す大切な一枚だ。

コロナ禍の前後に、このカーボンマーケットは大規模な再開発に着手し、多くのエリアがその姿を変えてしまった。私が写真を撮った場所はかろうじて残っているようだが、子どもたちが暮らしていた場所はどうなったのだろうか。立ち退きになったのか、彼らは今でも楽しく過ごしているのだろうか。この写真を見るたびに、そんなことを考えずにはいられない。

ビニール袋で遊ぶ子供たち。この一枚、この風景は一生忘れることはないと思う。
この一帯はコロナ禍前後にカーボンマーケットの再開発で大きな影響を受けた。このエリアは現在もしかしたら残っていないかも知れない。
US J-Rの前あたり(写真の左側あたり)がカーボンマーケットの再開発エリア。今は相当変わってしまったようだ。
カーボンマーケット再開発前のカーボンマーケット周辺の様子。
あらゆる食材が販売されていた。
カーボンマーケットの裏路地に入ると子どもたちがパソコンやゲームにかじりついていた。どこへ行っても子供の興味の対象は変わらないのだろうか。
カーボンマーケットの様子。多くの人が大通りを縦横無尽に歩く。アジアらしい風景が広がっていた。
新しいカーボンマーケットは2024年に完成とのこと。開発の動画などもYouTubeに存在している。

書いている人について
Go, Discoverを運営している小西裕太です。記事や写真などすべては私が書いて撮影したものです。私は金沢市を拠点にWeb制作などの仕事をしていますが、旅が大好きで、これまでにアジアやヨーロッパを中心に20数カ国を旅してきました。まだ訪れた国は決して多くはありませんが、その中で経験したことはどれも心に残るものばかりです。思わず笑ってしまうような出来事や、心が温かくなる瞬間。旅を通して感じたものを、いつか誰かと分かち合いたいとずっと思っていました。もしこのサイトを通じて、「旅に出てみたいな」と思ってくれる人が一人でも増えたら、それ以上に嬉しいことはありません。

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