ハノイの暗闇

ベトナムという国を聞いた時、あなたはどのような印象を抱くだろうか。歴史の中で、ベトナム戦争の影が今も色濃く残るこの国。かつて、北ベトナムと南ベトナムに分かれ、北はソビエトや中国など共産圏に属し、南はアメリカをはじめとする民主主義陣営との激しい戦争の舞台となった。世界で初めて、メディアが戦場の現実をリアルタイムで伝えた戦争としても知られ、その映像がアメリカ国内に大きな衝撃を与え、最終的には南ベトナム側、つまりアメリカが敗北した。

私は、このベトナム・ハノイをコロナ前とコロナ後の二度訪れた。記憶に残っているのは初めてハノイを訪れたときのことだ。到着したのは、すでに夜も深まった頃。空港の薄暗い照明が、どこか陰鬱な空気を漂わせていた。2017年頃のアジアでの旅行はポケットWiFiをレンタルしたり、SIMカードを現地で手に入れるのが主流だった。ハノイの市内の情報インフラはまだまだ整っておらず、ハノイで購入したSIMカードは3G回線が現役だったことを思い出す。かつての共産圏ということもあり、ハノイの街はどこか地味で暗く、そんな印象を抱いたのだ。

ハノイの空港から車で市内へ向かう道中、目に飛び込んできたのは、途切れることなく続くバイクの群れ。そのバイクに乗る人々、一台一台にそれぞれのストーリーを感じたのは不思議なことだった。カップルが密着して乗る2人乗りバイク、信じられない人数でぎゅうぎゅうに乗った家族、仕事帰りとおぼしき一人乗りの男。彼らの姿には、なぜか温かさが宿っていた。

市内のホテルに到着すると、照明がまた暗い。この街ではこれが普通なのだろうか。そう思いながら、チェックインを済ませ、夜も遅かったが空腹を覚え、夜のハノイの街へ繰り出した。そのとき見た光景は、今も鮮明に記憶に残っている。

夜の暗いハノイ中心部を歩いていると、遅い時間にもかかわらず、土産物屋がまだ営業していた。さらに足を進め、薄暗い小路へと入った時だ。ふと道の片隅を見ると、豆電球のようなわずかな灯りに照らされて、読書している男がいた。その姿に、思わず声が出そうになった。だが、目を凝らして見ると、軍服を着た男が壁にもたれかかり、立ったまま本を読んでいたのだ。こんな薄暗い場所で、本を読む軍服姿の男。まるで幽霊を見たような気分だった。これは2017年の出来事だ。タイムスリップしたわけではない。

この風景を見てふと思った。昭和20年代の日本も、こんな風景があったのではないかと。どこか懐かしさを感じさせるその光景は、2017年のハノイが、日本の昭和の時代を映し出しているかのようだった。

2023年にもハノイを再訪した。あの時の光景をもう一度見たくて、夜の街を歩き、軍服を着て読書する男を探した。しかし、2023年のハノイは、まるで平成半ばの日本のように、明るい街灯が道を照らし、軍人の姿はどこにも見当たらなかった。

2017年。ハノイの空港から市内までの道路。少し暗いというイメージだった。(2017年)
夜遅くにも関わらずハノイの街中はどこもバイクで溢れていた。(2017年)
通り過ぎるバイク一台一台にそれぞれのストーリーを感じた。(2017年)
バイクとタクシーが入り乱れる交差点。
ハノイの中心部の小路で軍人さんが暗闇で読書していた。このあたりだったと思う。(2017年)
遅い時間にもかかわらず営業していた土産物屋。(2017年)
子どもたちも街中でたむろしていた。(2017年)

2017年に宿泊したのは「ハノイ インペリアル ホテル」2024年現在も営業していた。この周辺で暗闇の軍人を見かけた。

2023年のハノイ

車も新しいクルマが並び、煌々と灯りが街中を照らしている。
コロナ禍を挟み6年の間にハノイの風景はあっという間に進化したように思う。(2023年)
豆電球くらいの灯りに照らされて本を読む軍人の姿はもうなかった。(2023年)

書いている人について
Go, Discoverを運営している小西裕太です。記事や写真などすべては私が書いて撮影したものです。私は金沢市を拠点にWeb制作などの仕事をしていますが、旅が大好きで、これまでにアジアやヨーロッパを中心に20数カ国を旅してきました。まだ訪れた国は決して多くはありませんが、その中で経験したことはどれも心に残るものばかりです。思わず笑ってしまうような出来事や、心が温かくなる瞬間。旅を通して感じたものを、いつか誰かと分かち合いたいとずっと思っていました。もしこのサイトを通じて、「旅に出てみたいな」と思ってくれる人が一人でも増えたら、それ以上に嬉しいことはありません。

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